浦和地方裁判所 昭和55年(ワ)946号 判決 1982年12月22日
原告
岩渕悟郎
被告
澤田昭夫
右訴訟代理人
戸田等
須田徹
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 被告は原告に対し、金二五二万二一二一円を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告
主文同旨
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は被告から、別紙計算書(一)(以下、単に「計算書(一)」という。)の借入年月日欄記載の各日時に、計算書(一)の名目上借入元本欄記載の各金員から、同天引利息額欄記載の各金員を各天引した金員(計算書(一)の現実に受取つた借入元本欄記載の各金員)を借り受けた。
2 原告は被告に対し、計算書(一)の返済期日欄記載の各日時に、右名目上借入元本欄記載の各金員を弁済したが、右弁済は手形をもつてしていたところ、右返済期日欄記載の昭和五二年九月一日以降の手形五枚が不渡りになつたので右各手形の額面合計金五〇〇万円への内入金として別紙計算書(二)の支払年月日欄記載の各日時に支払金額欄記載の各金員を弁済した。
3 前記1の各借り受けについて、天引した金員の合計は、計算書(一)のとおり金六九四万一〇〇〇円であるところ、右各借り受けについて利息制限法所定の利息金は、計算書(一)の利息制限法による利息額欄記載のとおりであり、その合計は計算書(一)のとおり金二四〇万八八七九円である。
4 したがつて、被告は、天引した金員合計金六九四万一〇〇〇円と利息制限法所定の利息額合計金二四〇万八八七九円の差額金四五三万二一二一円から不渡手形分への支払残金二〇一万円を控除した金二五二万二一二一円を法律上の原因なくして利得し、原告は、右と同額の損失を被つた。
5 よつて、原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、金二五二万二一二一円の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
(認否)
原告の請求原因は、すべて否認する。
(主張)
1 原告と被告との間に金員の授受がされたことはあるが、原告は、被告から受領した金員を第三者に融資していたから、実質的には、直接被告が第三者に融資していたのであり、原告は単なる仲介をしていたにすぎない。
2 仮に、原告主張のとおりとしても、原告は計算上元本が完済となつていることを知つて弁済していたから不当利得返還請求権は発生しない。
三 被告の主張に対する認否
原告は、元青南興業という金融業をしていたので利息制限法は知つていたが、本件で元本が完済になり過払となつていることを知らないで弁済を続けたものである。
第三 証拠<省略>
理由
一<証拠>によれば、請求の原因12の事実を認めることができる。
被告は、原告は、被告から第三者に対する融資の仲介をしていたにすぎない旨主張するが、右主張に沿う証拠は何ら存しないし、前記認定に反する証拠もない。
右事実によれば、請求原因1の昭和五二年六月二五日までの各借り受け及び同年七月二六日の借り受けについて、原告が利息制限法所定の利息額を超えて利息金を弁済していることは明らかであつて、右認定の各弁済金のうち、元本及び利息制限法所定の利息額を超過する部分は、被告が法律上の原因なくして利得しているというべきである。
二しかし、原告がもと金融業を営んでおり、利息制限法を知つていたことは、原告もこれを認めるところであり、<証拠>によれば、被告は、金融業を営むものではなく、本件の貸金も、被告がもと賃借していた東京都渋谷区初台所在の家屋の立退料として原告から支払いを受けた金一〇〇〇万円を、原告から有利に運用してやるからともちかけられて貸したものであること、原告は、請求原因1の各借り受けについて、自ら利率を決め、利息額を計算し、元本及び利息の合計額に見合う金額の第三者振出の約束手形のほか、借用証、印鑑証明、委任状等を被告が要求もしないのに交付する等、全面的に原告が主導権を握つていたことの各事実を認めることができる。
右各事実及び請求原因1の天引利息額が相当高利であることからすれば、原告が、請求原因2の各弁済をするにあたつて、天引利息額が利息制限法所定の最高限を超過するものであることを知つていたものと推認するのが相当である。
そうすると、原告は、各弁済当時、元本及び利息制限法所定の利息額を超過する部分が存することを知りながら、請求原因2の各弁済をしたものというべきであるから、民法七〇五条により、被告に対して、これが返還を請求することはできないものといわざるを得ない。
三以上の次第で、原告の請求は、理由がなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(手代木進 一宮なほみ 綿引穣)
別紙計算書(一)、(二)<省略>